みかどパン店

projetdelundi2006-08-22

まるで奇跡のように近代化の波を逃れ、「まちがい探し」のごとくそこだけ数十年前の姿でたたずむ古い商店を、「天然商店」と呼び習わしている。
わたしの知るなかで、この物件は、東京でもっとも美的完成度が高いもののひとつである。
すばらしいのは、作為がまったくないということである。
ただいつも通りの日常を普通に淡々と積み重ねていたところに、周囲の流行や文化がものすごい勢いで進行して取り残され、アナクロニズムと化してしまったという風情。
ロケーションもすばらしい。
谷中墓地の目の前の、狭い道が二股に別れるちょうど股のところに古い堂々とした杉の木が立っていて、その膝元によりかかるように、あるいは押しのけられるように、傾いたような木造の店が建っている。
店の人はいつもいない。奥で休んでいるのだろうか。
ガラス戸越しに覗くと、コーラの冷蔵庫がある。ビンを入れるための仕様になった昭和風のもの。
「天然商店」ではすっかりおなじみの、脚の付いたショーケースのなかに、パンや菓子が入っている。
こういうショーケースを家具としてうちに置いてみたいと、いつも夢想している。
谷中4丁目2