2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

蔵前

蔵前は古くさい街だった。 in-kyoという雑貨店に行った。履物の工場だったところを改装したのだという。コンクリートの三和土や壁はきれいに磨いただけで、なにもつけくわえずかつてあったままにしてある。時間を積み重ねたことによる質感と暗さがひんやりし…

廃園

(きのうのつづき)サクラの花の色は目に滲みる。目の端にほんの一瞬横切っただけでもどきりとする感じがあって、素通りできない。 また別の路地の奥にサクラを見た。病院の院長先生のお宅である。 路地を進んで家の前までくると、大きなサクラの木に加えて…

サクラの旅

おつかいに出たらサクラに誘われ、用事を忘れてふらつき歩いた。 踏切で電車の通過を待っていたらとなりの踏切のところにサクラの大木が目に入った。一本桜である。そこはよく買物にいくスーパーの目の前だったけど、咲いてみるまでそんな立派な木がそこに立…

目黒川

暗い水面に薄桃色のサクラの花びらが落ちて流れていく様子はいつまでも見飽きない気がするのはなぜだろう。 コンクリートの箱みたいな正確にまっすぐな川と桜の並木ががどこまでもつづいていく。 川を渡る橋のうえに楽しそうな花見客がいて、その向こうの橋…

富士見丘教会

下北沢の丘の上に建つ教会。 巨大な教会の荘厳さは神の偉大さを連想させるが、ちいさな教会が感じさせるのは家のようなあたたかみである。この教会を訪れて知ったのはそのことだ。 縦長のアーチ型の窓から差す光が磨き込まれたフローリングの床に鈍く反射し…

猫町

邪宗門の本棚に萩原朔太郎の『猫町』があった。これはわたしが最高に好きな短編小説である。 どういう話かというと、人後に落ちない方向音痴である朔太郎が家のすぐ近所で迷子になる。丘を越え畑を抜けパニック状態で進んでいくと、見たこともないほどかっこ…

モリマリティー

邪宗門でモリマリティーを注文した。トワイニングのプリンス・オブ・ウェールズにエバミルクを注いだもので、「こうするとイギリスのお茶そっくりになる」と森茉莉が愛飲したものだという。 本当にそうだった。ミルクを入れても心地よい紅茶の風味だけは残し…

邪宗門

下北沢の喧噪を抜け茶沢通りを1キロばかリも南下したところに「北沢村」と呼ばれる一角がある。ときどき感じのいい雑貨店が現れる(nonsenseやfog)。でも、多数を占めるのはごく普通の古くさい商店と住宅であって、隠れ里みたいな雰囲気がある。 裏通りに…

井の頭の梅

「梅の香りが袖口につくと男のひとは家に帰って怒られないだろうか?」 という意味のことを樋口一葉は梅を見た日の日記に書いている。 一葉が見た梅の花は香水と紛うほど強い香りを発していたというのだ。 梅は見るものではなく香りを楽しむものだ。明治の頃…

代官山という山

代官山という山はいったいどこにあるのだろう。と思っていたらここにあった。 代官山の駅に着いたときには中目黒のほうからじわりと上がってくる峯の頂上にいるので、自分の足の下の山に気づかないということなのだった。 西郷山公園は中目黒へと下りる斜面…

きのうの桜

代官山駅から西郷山公園へと行く旧山手通りは散歩道として楽しい。 collexというデザインショップがある。絵本の展覧会をやっているとのことで期待して行ったら翌日からだった(いまはやっているだろう)。わたしが展覧会に行こうとすると必ず翌日からか前日…

早咲き桜

早咲きの桜が西郷山公園の丘の上で咲いていた。まわりの桜の木はすべてソメイヨシノらしくまだ咲いていない。この一本だけが満開の花を咲かせている。 早咲き桜は丘のちょうどてっぺんにあってここが頂上ですと宣言しているみたいだった。 まわりは芝生で木…

ぴったりしたひと

ぴったりしたものは気分がいい。 気持ちとぴったりした言葉が見つかると晴れ晴れするし、計量カップで水を量るとき、一回目のトライアルで見事目盛りの線上に水面がきていると、なんだかわからないが天上に昇っていくような幸福感に包まれる。 代官山を歩い…

白いマンション

原宿を歩いていたらヴィラ・ビアンカがあった。集合住宅の名作として雑誌でいつも取り上げられる物件だが、実際に見る印象も写真とほぼ同じであった。あ、ここにあったのね、という感想だけ抱いて、ちょっと建物を見上げて前を通り過ぎた。 その隣に建ってい…

ジャンヌ・ダルク

若きイチローはあるシーズンオフ、バット工場に出かけた。 並べられた何百何千というバットのなかから最初に気になった一本を掴み出し、振った瞬間に、 「このバット、ヒット出る!」と思ったそうである。「こんなすごいバットでヒットが出ないんだったら、…

絵本

保育所のひとに「虎太郎君(1歳、11キロ)は食べることに関して発達が早いですね」といわれた。 同年齢の子では及びもつかないほどの食欲で、アクロバティックに食べ物を口に運ぶらしい。 頭脳はさほどでもないといわれているようであり、思い当たる節がない…

日課

妻の朝の日課は洗濯。 虎太郎(1歳)の朝の日課は、妻が洗濯しているとき横へやってきて洗濯かごの中味をぶちまけること。 わたしの朝の日課は、虎太郎がぶちまけた洗濯かごの中味を拾い集めること。

ニコライ堂

緑青に覆われたドーム屋根の前をわたしは何度となく通っていたが、建物のなかに実際に入ることは想像したこともなかった。ひとがなにかと出会うのは、対象とどれだけ接近したかという近さによるのではなく、縁があってある日呼ばれるものかもしれない。 わた…

屋根

きのうの夜、ネコが奇矯な声を発していた。2種類のにゃあが交錯する。まだ肌寒いのにネコには春がやってきたらしい。 おなじみのネコである。いつも向かいの風呂屋のトタン屋根のうえにいる。夏は暑くてなにもしたくないのか寝そべっている。冬は屋根にひっ…