茶店

projetdelundi2007-10-23

「さはら」は向島百花園のなかの茶店である。
おもしろいおみやげを売っている。
梅干しは向島百花園の名物、梅にちなんでいる。
都鳥の箸置きは、いまは瀬戸物だが、かっては隅田川の川底の土をすくって庭内で焼いた「隅田川焼き」であったそうな。(都鳥は向島のアイドルキャラクター)
そんな調子で向島百花園にあるすべてのものと同様、ここに売られているものにはすべてにいちいち風流ないわれがあり、そんなふうに言われるとなんだかわからないが急にいいもののような気がして思わず買っちゃいそうになる。
これは江戸時代に向島百花園を作って一世を風靡したカリスマプロデューサー佐原鞠塢の作戦なのであった。
「さはら」でわたしたちが土産物を物色していると、真っ白のブラウスをきれいに着こなしたうつくしいおばあさんが首を突っ込んできていわれや使いかたを説明してくれる。
どんなに小声で話していてもそのお年寄りは耳聡く聞きつけていわれを教えてくれるのだ。
「なるほど」とか相づちを打つと
「そうですよ。わかった? 覚えてくださいよ」
と妙に上からの物言いなのが江戸っ子ぽくてなんだかおかしい。
聞けば、このお年寄りは佐原鞠塢の子孫なのであった。
東京における江戸はもうすべて破壊し尽くされてしまったが、街角で江戸のDNAを濃密に保管しているのが老舗である。
300年の歴史を持つ王子の「扇屋」は池波正太郎の『鬼平犯科帳』にも登場しているように、作家にも江戸への想像力のインスピレーションを与えている。