本郷

projetdelundi2008-02-09

本郷三丁目に大正時代のモダニズム建築が残っている。
まるで文化財のようなビルでも、建っている限り住んでいるひとはいるはずだ。憧れながら見ているだけでなく実際に住んでみたらどんな感じだろう、とふと思いたち階段を上がった。
踊り場でタバコを吸っているひとに尋ねると親切にいろいろなことを教えてくれた。
このビルは80年前に建てられたもので、自分の所属するデザイン会社のボスがフロアを買い取りシェアオフィスにしている。いまは満室だが空きがあれば募集する。かつては某有名デザイナーもここにオフィスを構えていた。etc
なかへ入れてもらった。雰囲気のある薄暗い廊下を通ってロビーのように使っている部屋へ出た。窓枠は雛壇のような階段状の意匠になっている。80年前からそのままだという床板はところどころ穴が空いたりしながらも黒光りして重厚な魅力を放っている。
「ぼくも古いマンションに住んでいたことがあるんですよ」
と突然そのひとはいった。同じ文京区内にあってクリストファー・アレグザンダーという大建築家の手になるものだそうだ。どうやってその家を見つけたのですか? と質問したら、
「偶然が重なりすぎてて誰にいっても信じてもらえないんですよ」と前置きしてからこのようなエピソードを語りはじめた。
ある日ラーメン屋へ行った帰り、目にした電柱が夢のなかで見たものとまったく同じだった。また少しいくと再び夢に見た四つ角へ出て、そこを曲がるとまた夢と同じ風景に出会い……という具合に導かれながらやってきた路地の奥には夢で見たことのある素敵に奇妙な建物が建っていた。それがのちに住むアレグザンダーのマンションだったが、不思議なこともあるものだと思っただけでその場を去った。
しばらくして引っ越す必要ができて不動産屋を訪れると、「デザイン関係のかたならこういう物件はどうですか」と引き出しの中から出してきたのが、アレグザンダーの物件だったという。
たまたま目にした建物の階段をきまぐれに上がってみたわたしの偶然は別の偶然にぶつかった。だから、これをたどっていけばわたしもなにかおもしろいものを探り当てるのではないか。とその話を聞きながら都合よく思った。
写真は本文とまったく関係なく、ニュートンがこれを見て引力を発見したとされるりんごの木。イギリスから小石川植物園に株分けされた。