井の頭の梅

projetdelundi2008-03-21

「梅の香りが袖口につくと男のひとは家に帰って怒られないだろうか?」
という意味のことを樋口一葉は梅を見た日の日記に書いている。
一葉が見た梅の花は香水と紛うほど強い香りを発していたというのだ。
梅は見るものではなく香りを楽しむものだ。明治の頃はサクラの花見と並んで梅見が盛んだったそうだが、梅園も少なくなっていつの頃からか廃れた。わたしたちの文化が視覚中心になり、目に見えないものを楽しむ力が衰えているということなのだろうか。
先月のピクニッケを井の頭公園でしたのは2月27日で、そのとき梅はまだ盛りに遠かった。
満開の写真が撮りたくて再訪したのが今週の月曜日のことで、そのときはすでに盛りを過ぎて梅の花びらが春風に舞っていた。風が吹くと目の前を花びらが横切って風景がピンクの水玉模様になるのだった。
その景色にはサクラが散るときほどのさびしさはなかった。梅が散れば本物の春がやってくるのだから。
梅の香りよりも水仙の香りのほうが強く匂っていた。水仙は白い風体に似つかわしくすっとする透明な匂いがした。