田園調布

projetdelundi2008-06-18

普通は晴れたときに散歩をし雨のときは散歩しない。雨の日に散歩してもじめじめしてズボンの裾は濡れるし靴は汚くなるし暗い気分になる。
と思っていたけれど雨のなか多摩川駅から田園調布まで歩いた。多摩川駅のホームから森が見えると以前に書いた。その森はせせらぎ公園である。森のなかを通り抜ける小道。行ってみたら本当にそんな場所だった。駅前とは思えないほど深閑としている。湧き水が崖を滑り落ちて滝となる。沼のような場所にそれが流れ込む音、沼の水面を無数の雨粒がたたく音を、傘をさしながらずっと聴いていた。
多摩川駅をはさんで反対側が多摩川台公園。公園ばかりやたら多く商店街はあまりない。静かな森のなかに住宅が埋まっている、そういう印象すら覚える。豪邸ばかりであるから庭も緑豊かでそのためにいっそう感じるのだろう。
あじさいの咲くところからさらに歩いていくと丘の上に古墳がある。丸い丘とそこから低まっていくなだらかな斜面。前方後円墳の形をサイドから確認することができる。鬱蒼とした木々に覆われ暗い場所だが、少し歩くと木が切れて見晴らしのいい場所があった。土色に濁った多摩川が少しだけ足早に流れ去っていく。上流から下流まで悠々と同じ速度で流れ、押しとどめようとしても誰も塞き止めることはできない。そうした恐ろしいような確実さが遠く丘の上まで迫ってくるようで言葉もなくじっと見ていた。
多摩川台公園の先は宝来公園となってそれを抜けるともう田園調布駅までの道のりの半分をきている。田園調布は丘の上に作られた住宅地で丘と谷を上ったり降りたりしながら歩いていった。住宅の角を曲がると不意に丘のてっぺんに出て眺望が開かれるという場所に何度か出くわした。
いまの東京ではどこもかしこも高層マンションが建って、マンションの住人はいつでもパノラマの景色を眺められるけれども、その下を歩くひとはいつもマンションの足下を暗くじめじめと歩かねばならない。この田園調布はさすが高級住宅地で建ぺい率の規制が厳しいのであろう、高い建物はひとつもない。だからナチュラルなパノラマがまだたくさん残されている。
丘の上からたくさんの屋根が並ぶのを、あるいは鉄道線路がまっすぐにつづいていく様を眺め下ろす。
写真は、田園調布の坂道を幼稚園ぐらいの子供が駆け下りてくるところ。男の子は坂の下まできたところで速度をゆるめ、きびすを返して坂を上っていった。坂の上からはお母さんらしきひとがこちらへ向けて歩いてくる。彼はお母さんといっしょに歩いていたけれど坂のせいで足が止まらなくなり転がり落ちてしまったのでまたお母さんのところへ戻らなくてはならないのだ。