京都上リ下リ

projetdelundi2008-08-26

ママチャリを借りて京都の町を走りまわった。京都はとても暑い町として知られているけれど、自転車に乗って風を切っていくと汗がすぐに乾いてひんやりして、気持ちよかった。
京都の住所は「寺町上ル」とか「御幸町下ル」とかいうふうに表現されている。北へいくことが上ルであり、南は下ル。道を訊いても右左という代わりに「その道を南へいって」といわれる。京都のひとの頭のなかでは常にいま自分が南を向いているか北を向いているかという地理感覚が意識されている。東京ではそうではない。わたしは家の近所にいてさえどっちが北なのか南なのか知らない。ところが京都の街路というのは完全なブロックとなっていてひとはいつも正確に東西南北を向いているのである。
この日がたまたまそうだったのかもしれないが、京都では北風までが正確に吹いていた。自転車で北へいくと向かい風を受けてペダルが重くなる。一方、南へ向かうと自転車がどんどん進む。わたしは風に乗って古い家並を道を飛ぶように走り抜けた。自転車に追い風はめったにない。自転車の進行方向とまったく同じ方向に風が吹かなければ追い風を実感することなどありえない。だからあの日の京都の風は正真正銘の北風だった。北にいくと本当に坂道を上ルようであって、南へいくと下ルようだった。わたしは調子に乗って鴨川のそばの道を、寺町通りを、あるいは南北方向へ伸びるその他のいろんな道を風に吹かれて、エレベーターみたいに一日中上リ下リしていた。