南山手

projetdelundi2009-04-25

大浦天主堂からマリア園へ歩く。さらに丘を上がると海が見える。
石畳と煉瓦の古い町が百年の月日のうちに植物に浸食され自然と一体になっている。もしパリのモンマルトルに海があったらこんなふうだろう。私は海のある町が好きなのでパリにも海があればいいと思っていた。この町にはずっと夢見ていた景色があった。
私はグラバー園には行かなかった。外から見て観光用の雰囲気があったからだ。作られたものにはあまり興味がない。
この町にはいくつかの洋館が残っている。病院などとしていまも使われている。文化財として「保存」された洋館にはどんなにすばらしい建物であってもときとして興ざめする。南山手の建物がいくら古くても色っぽくつややかに見えるのは、暮らしの気配が充満しているからではないだろうか。
雨上がりの浄化された透明な空気の夕方に、赤い光を浴びながら、石畳の細い坂を足の悪いおばあさんが手すりをつかまりながらゆっくりと上がってくるのを見た。私は手伝いたいと思ってでもなにもできずにそれを見送っただけだった。でもそれはこの石畳と煉瓦の町が生活とともにあることを示すうつくしい光景だった。