クリームパン

projetdelundi2009-05-22

次回の『パニック7ゴールド』(6月中旬発売)連載「パン・ラボ」はクリームパンを取りあげる。
あんぱんの発祥である木村屋の由来を読んでみると、あんぱんを発明したのが木村屋の創業者親子であったことがわかる。
一方、クリームパンは夫婦が発明したのだった。
クリームパンの本家本元は中村屋である。明治時代、本郷の東大の前に店を構えた。当時東大の近辺にはミルクホールというものがあった。牛乳はまだ珍しくハイカラなものであったはずだが、大学から出てきた学生たちはこういうところで牛乳やお菓子を食べお腹を満たした。
そこでシュークリームを見た中村屋の夫妻はこのクリームというものを、あんぱんのあんの代わりにパンの中に入れてみてはどうかと思いついたそうである。
クリームパンはやさしい。女性的な食べ物だと思う。クリームもパンも、どちらもふわふわしている。あんぱんはもっさりしてお腹に溜まり男性的な感じがする。メロンパンも女性的だがやわらかくはない。ちょっと気取った感じもする。
だからあんぱんを作ったのが男たちであり、クリームパンの誕生に女性もかかわっていたということは偶然ではない気がする。
パンの中にクリームを入れた理由のもうひとつは、牛乳を使っていて栄養価が高く体にいいというお客に対する「思いやり」だった(http://www.nakamuraya.co.jp/history/hist_03.html)。
当時の日本は栄養のある食べ物が行き届いていなくて、ビタミン不足による脚気でたくさんの人が倒れていた。脚気米食をする日本人に特有の病気で、パンと牛乳を摂れば脚気にならないとされていた。だからクリームパンほど体にいい食べ物はない。いまはコレステロールがもっとも体に悪いといわれる。健康というものさえ時代や場所によって揺れ動く。
クリームパンが思いやりから発明されたというのは私にとってひとつの発見だった。クリームパンのやさしさの理由はそうしたところにあるのかもしれない。
ちなみに中村屋の創業者はクリスチャンだそうで、中村屋で修行した後独立したヤマザキ創業家カトリックだという。それから、日本マクドナルドを創業したのは藤田田という有名な経営者だが、あの珍しい田という名前は十字架が口の中に入っていることに因みつけられた。パンの小売業のトップはことごとくキリスト教徒が占めていることになる。たくさんの人に安い値段でパンを提供しお腹を満たすという思想が彼らの事業を強力に推進したのだろうか。