路上ガーデン

projetdelundi2007-09-27

向島という地名に心惹かれる。
隅田川の向こう側に広がる別世界という趣をその言葉が喚起するからだろうか。
江戸のむかし多くの雅人たちがこの地に遊んだのは、墨水と呼ばれた隅田川の水辺の草深い風景を味わうためである。
浅草の喧噪を背に言問橋を東へ渡る。心なしか幽玄な、メランコリックな空気を肌に感じる。
岸辺はコンクリートに覆われ、田園はアスファルトに取り替えられはしたが、それでも向島の人々は草とともに生きている。
道路と長屋の壁のあいだ、猫の額ほどの空地もあるかないかというところへ鉢植えが並べられている。
消えいく植物たちが長屋の住人の手を借りて生き延びようとする秘かな企みでもあるかのように、鉢植えは断続して路地裏の風景を埋めている。
向島芸者とおぼしき日傘を差したひとが、路上ガーデンの前を歩み去る姿は涼しげで、風雅でもあった。