猫の逡巡

projetdelundi2007-11-02

うちの隣りに空地がある。
古いビルが破壊されたあと更地に戻され白砂が敷き詰められた。
そこに黒い猫が居着いている。
かれは空地のまんなかあたりのお気に入りの場所にいつも寝そべっている。
わたしの部屋がある6階の踊り場から見下ろすと、白い砂と猫の黒いからだが対称的である。
泣きやまない子供をあやすために外に出たときはよくそれを眺める。
あるとき、ゆっくりと近づいてきた自転車が空地の前に止まり、男が金網ごしに手を出して猫を呼んだ。
猫はときどき声のするほうを振り返るだけで、呼びかけに応えようとしない。
自転車の男が場所を変えながら何度も何度も呼ぶと、少しずつ距離を詰め、やがて男の手へ駆け寄った。
猫は人間とのコミュニケーションを欲しているけれど警戒もしている。
猫がだんだんとひとを信頼していくまでのこころの揺れ動きが、猫と自転車との距離に表れ見えているようだった。
ひととひとが出会って打ち解けあっていくあいだにもまったく同じことが起こる。
逡巡や揺れ動きが出会いというものを稀少で大事なものにしていると思う。