木のぼり男爵

projetdelundi2007-11-29

公園とは地上だけにあるものではない。宮下公園は階段を昇っていくコンクリートの公園である。
飲んべえ横丁の前を通りすぎて突き当たりにある階段を昇るのはレトロでいいが、ホームレスの方などいらっしゃるので、ファイアー通りのほうから入っていくほうがいいかもしれない。
宮下公園には空中庭園ぽさがある。明治通りを眺めやると紅葉した並木の枝のちょっと下あたり、立ち並ぶビルの2階あたりに目線がぶつかるので、空の上に自分が浮いているような錯覚が少しだけある。
『木のぼり男爵』(イタロ・カルヴィーノ著)という小説を思い出した。木に登ったまま降りてこなくなった人の話で、食事も、勉強も、シャワーもぜんぶ木の上でする。地上よりかえって便利なところもあって、りんごももぎり放題だし、だれよりも早く森のなかを移動できるので軍隊をひとりで撃退したりする。
どうしてこの作家はこういうユニークなことを思いついたのだろうか。
たぶん小説についての小説を書いたのだろう。小説というのは現実ありのままだけれども読んでいるときの気分というのはちょっとだけ宙に浮かんでいる。つまり現実離れしている。そういうことを書きたいと思って木の上を歩く小説を書いたんだと思う。
いま東京はいたるところ紅葉で、表参道も、宮下公園もどこもかしこもうつくしい。
桜の季節と晩秋には東京のことをきれいな街だと見直す。ややもするとわたしは興奮してしまって、地下鉄に乗らずに歩いて時間を食ったりする。赤や黄色の色彩の分量だけの興奮が余ってしまい足がそわそわして歩きたがる。
紅葉とセットになると見慣れたはずのビルにもあたらしいうつくしさがあって、ビルを見ようか、紅葉を見ようか、落ち葉を見ようかときょろきょろして今度は目が余る。

木のぼり男爵 (白水Uブックス)

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