黄金バット

projetdelundi2008-01-13

上野公園はレトロだと思っていたら紙芝居屋さんまでいた。
ヒロインのお嬢さんの台詞をいうときは
「キャー、助けて黄金バット!」
と急に裏声を出す。
そのほかいろんなギャグや解説も紙芝居の合間合間にはさんでくれるのだが、なにしろ観客が数人なので、自分がシラケてしまうと一堂がシラケてしまう気がして、笑ったり拍手したりして盛り上げないと、という妙な使命感連帯感に駆られて緊張した。
子供のころ近所に紙芝居がきていた。というととてもおっさんみたいだけど、例外的に紙芝居が生き残った天然記念物的な地域だったのである。
紙芝居専用自転車でやってきた。新聞配達で使うようなレトロなごつい自転車の座席に紙芝居ボックスを立てられるようになっている。
それから、自転車の荷台に小ダンスがくっついていて引き出しのなかに飴とか海老センベイとかが入っている。それを買わないと
「お菓子を買った子だけ前。買ってない子はうしろへ下がって下がって」
と追い払われる。わたしはいつも後ろで見ていた。
けれども、黄金バットが登場するところを見たことがない。新しい紙芝居を買うのがもったいないのか、一日につき一枚しかめくらないのである。だいたいは山とかしか描いてないようなごくつまらないコマを見せられる。
「このあとはあしたのお楽しみー」
といいながら、翌日もきのう見せた山の絵をさんざん引っ張る。
しかもじいさんがダミ声でゴニョゴニョいうだけでおもしろそうに喋ってくれるわけでもなんでもない。そのうちこなくなってつづきはうやむやになった。
いま思うと、夕方になると紙芝居屋が空地にやってくるイベント感というのはたまらなくドキドキするものがあったし、こない日はさびしかった。
上野公園の紙芝居屋さんは
「いまはテレビがあるから紙芝居がなくなっちゃいましたけど」
といっていたが、本当の理由は経済が発達して、子供から十円二十円集めるような商売では生活が成立たなくなったせいではないだろうか。