ジャンヌ・ダルク

projetdelundi2008-03-13

若きイチローはあるシーズンオフ、バット工場に出かけた。
並べられた何百何千というバットのなかから最初に気になった一本を掴み出し、振った瞬間に、
「このバット、ヒット出る!」と思ったそうである。「こんなすごいバットでヒットが出ないんだったら、あきらめよう」
イチローはその年ブレークし、以来7年連続首位打者になった。
野球選手というのは一流になればなるほど、年ごとに自分のバットを繊細に微調整していく。ところが、イチローは一度もバットを変えていない。
しかも、そのバットは普通のより細くて、スイートスポットが狭い。論理的に考えればヒットが生まれる確率は低い。
けれども、イチローはそれを選んだ。
天才の勘は常識や論理を上回る。と結論してしまえばたしかにそうだが、たんにスピリチュアルな次元の話で終わる。
しかし、こうもいえる。そのバットを信じたからこそ、遮二無二練習してあの成績を残せるようになったのだと。
イチローはもう道具に関しては迷うことがなくなって、バッティングの複雑な連立方程式の一項を消すことに成功したのである。
勘を信じるようにしたい、とこの話を聞いてわたしは思った。考えすぎることによって感性を摩滅させ、単に自分に対する言い訳ばかリ増やしていると、自らを省みたからである。
さて、ジャンヌ・ダルクイチローのバットだろうか?
滅亡の危機に追い詰められたフランス軍は決して(神の子としての)自分を疑うことのないひとりの乙女の出現を目の当たりにして、彼女を信じることに賭けた。そしてイギリス軍に勝利した。
それは神の起こした奇跡なのか、信じることの強さによるものなのか。
ここに掲載したイコンは上智大学(のとなり)にある聖イグナチオ教会売店で買ったものである。わずか30円ぐらい。
かわいらしいイコンが目移りするほどたくさんあって選ぶのは楽しいことだった。けれども、ジャンヌ・ダルクの話が大好なわたしは、最初に目についたこのイコンだけはしっかり買った。