猫町

projetdelundi2008-03-25

邪宗門の本棚に萩原朔太郎の『猫町』があった。これはわたしが最高に好きな短編小説である。
どういう話かというと、人後に落ちない方向音痴である朔太郎が家のすぐ近所で迷子になる。丘を越え畑を抜けパニック状態で進んでいくと、見たこともないほどかっこいい町にでる。商店街の看板や店のたたずまいがレトロで奇跡のように自分の気持にぴったりしている。その町を飽かずうろつきまわっているとどこかで一度見た町であるかのような既視感に捕われはじめ、そして気づく。これは自分がいつも買物をしている商店街であると。
この現実離れ文学の金字塔といえる作品の舞台が、実は下北沢の南口商店街なのだと邪宗門のご主人に教わった。駅から下って茶沢通りに出る少し前の「餃子の王将」のところだと。
えっ、あの餃子の王将!? と『猫町』を読むずっと前から知っていてそこで何度か餃子を食べたこともあるラーメン屋がまさに猫町だと知って驚き、そのあとでやおら感慨がこみあげてきたのだった。
わたしたちはご主人に文学散歩マップをいただいて外へでた。そこには重要文化財に指定された教会の場所が記されていて、教会マニアとして行ってみないわけにはいくまいということになったのだ。
北沢緑道(写真の小川)でほころびはじめたサクラを見て、それから住宅街へ入る。神社の脇の坂を上ると公道とは思えないほどに道が細くなって、細道を抜けると丘のてっぺんにでて家の隙き間から町のパノラマが垣間見えたりしてドキドキした。
それはいいのだけど、街路はスクエアではなくて、どの道もちょっとずつくねくねして、ややもすると袋小路に突き当たるし、どこをどう進めば教会に行けるのか、自分がいまどこにいるのか、地図を手にしているのにわからなくなってきた。わたしたちは迷子になっていた。
やっとの思いで大通りに出たと思ったら、木曜館というよく知っている雑貨屋(ピクニッケで使う敷物や雑貨をよく調達する)の前なのだった。その道をさらにまっすぐ行くと本当に餃子の王将へ出た! 「狐につままれた気分」という言葉にこんなにもぴったりした体験が存在するなど想像もつかないことだった。
猫町』は実話だと確信した。下北沢にはひとを猫町へと連れ去る地霊が徘徊しているのかもしれない。

猫町

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