サクラの旅

projetdelundi2008-03-29

おつかいに出たらサクラに誘われ、用事を忘れてふらつき歩いた。
踏切で電車の通過を待っていたらとなりの踏切のところにサクラの大木が目に入った。一本桜である。そこはよく買物にいくスーパーの目の前だったけど、咲いてみるまでそんな立派な木がそこに立っているなんて気づきもしなかった。
近づいてみるとサクラは一本ではなく二本だった。二本はマンションのフェンスによって隔てられていた。一本はマンションの敷地のなかに立ち、一本は外に立っていた。
外の一本が立っている場所は電車の線路の拡幅事業のための用地でいましも工事がはじまろうとしている。そのサクラは来年も再来年も同じようにまた花を咲かせることができるのかどうか。
もう一本はマンションのベランダのすぐ鼻先まで枝を広げている。木の前の部屋はかなり陽当たりが悪そうだが、住人の気分はそんなに悪くないかもしれない。
3月の声を聞くとつぼみがどんどん膨らみ色を増していくのを毎日つぶさに感じて、咲いたら外へ花見にいく必要がないほど、目の前で花弁やめしべまでつぶさに見て取ることができる。風が吹けば部屋のなかへ花吹雪が舞い落ちるだろう。
そんなことを考えながらしばらくのあいだ三階建てのマンションを遥かに越えるサクラの木を見上げたあと、そういえば用足しにきたのだと思いだし歩いていたら、路地の奥にまた見事なサクラを見つけた。
それは路地のどん詰まりの駐車場の向こう側の小学校のグラウンドに4、5本あるサクラだった。サクラの花びらが散り落ちた駐車場では小学二年ぐらいの男の子が二人しゃがみこんでいた。ときおり、プーという音が鳴った。
「こっちにも鳴るやつ見っけ」
「ねえ、どうやったら鳴るの? 表だっけ、裏だっけ?」
得意になって花びらを鳴らしている男の子にもうひとりの子が一生懸命聞いていた。自分もよくこんなことを友だちとしていたが、たいていの場合、後者の男の子のようにうまくできずマゴマゴしていた。
少年たちはどこかへ駆けて去り、わたしはフェンス越しのサクラを見上げた。ボールが外に出ないよう見上げるほど高いフェンスが張られていたのだけど、そのいちばん高いところに魚を入れる発泡スチロールの白い箱がはさまっていた。満開のサクラをバックに白い箱。いったいどうやったらあんなところに発泡スチロールの箱がはさまるのか。狙いもシチュエーションもまったく謎であった。
(写真はきのうのつづきの目黒川)