廃園

projetdelundi2008-03-30

(きのうのつづき)サクラの花の色は目に滲みる。目の端にほんの一瞬横切っただけでもどきりとする感じがあって、素通りできない。
また別の路地の奥にサクラを見た。病院の院長先生のお宅である。
路地を進んで家の前までくると、大きなサクラの木に加えて、ピンク色の椿、ハクモクレンまでが満開だった。その庭に春の光が集まってきているように華々しかった。華々しいという言葉はきっと花の華々しさからきているのだなと改めて思った。天上的な風景だった。もしこの世に春という季節がなかったらひとは天国を想像しなかったかもしれない。
天国の話までしたのでさぞ立派な庭だと思われているかもしれないが、廃墟である。取り壊しの工事が行われているのだ。パワーショベルがモーターの音をウインウインさせながら動きまわり、コンクリートがガゴーと崩れ落ちる。舞い上がる砂埃が視界を朧にし、花々に黄色いフィルターをかけている。
奇妙で、はかない景色だった。栄えるものと、失われれるものと。反対のものがひとつの場所にあった。
サクラの横に置かれた電車の車両が奇妙さを増幅させている。病院の院長は鉄道好きが嵩じて車両を自宅に置いているそうだ。なんでそんなことを知っているかというと、このまえ所ジョージの番組にでていたからである。
ときどき春風が花びらのひと吹きを電車と廃墟の風景に吹きかけていた。