台場

projetdelundi2008-07-06

夏というのはそういえばこんなに暑いものだったのだ。と砂浜を歩きながら思いだしていた。砂浜といってもバカンスにでかけたわけではなくお台場の海である。近いのでありがたみがないようであるが本物の海には変わりない。
日盛りでちょうど太陽が真上にあって白い砂浜に影はない。ただ足もとに体の断面とほぼ同じ大きさでわたしの影が転がっているだけだ。
幼い頃海水浴にいくとテンションが上がって沖に見える島へ泳ぐかボートを漕ぐかしてなんとかたどりついてみたいと思ったことを覚えている。お台場の沖にも緑の島が浮かんでいてあそこまでいかなきゃ帰れないという気になった。砂浜をずっと歩いていくとそこにたどりつけそうである。こんな暑いのになんであんな遠くへ行かなきゃいけないのと渋る妻を引っ張って砂の上を歩いていった。
砂浜が尽きるところを付け根として天橋立のような海上の道がその島までつづいている。舗装されていない道に木が並んであふれるばかりに葉を茂らせている。人影は見えない。暑さのせいなのか、静かさのせいなのか、青空のせいなのか、海のせいなのか、そこは沖縄を思いださせた。『沖縄のおさんぽ』でも取り上げた場所だけれど、森のなかに集落を作って住んでいるひとびとがいて、そのひとたちの村に似ていた。
耐えがたいほどの暑さは消えていた。この緑陰の道には海風が吹き抜けているからだ。道の途中に大きな木があり、草で覆われたその涼しい木陰から海(とその先のフジテレビ)を眺めた。
島は台場であった。ペリーが黒船に乗ってやってきたとき江戸城を攻撃させないように慌てて幕府が海上に建設した砲台の島である。単なる砲台というには広大であって一辺が二、三百メートルはあるだろうか。古い石垣と生い茂った草には廃墟感があって海の向こうに見える高層ビルや高速道路と相まって奇妙な感じだった。アニメでよく出る核戦争後の東京みたいだった(『未来少年コナン』とか)。あるいはここも沖縄に似ていた。グスクと呼ばれる城跡の巨大な石垣もこんなふうに人気もなく放置されるがままになっていた。にぎやかな東京にいてそれとはまったく正反対の沖縄の場所のことを思いだすこと自体不思議な感じがした。
この島の中央には巨大な窪みがある。なんのための穴だかは知らない。江戸時代から穴だったらしく窪みの中央には軍事施設の遺構が残されている。牧草地のように雑草が一面を覆っている。
ビートルズの、なんという題名だったか忘れたけれど「きのう巨大な穴が発見されたという記事を新聞で読んだ。穴だよ、穴、穴」というただそれだけのことを歌う歌がある。わけのわからなさに不思議な余韻があって、そこだけ繰り返し聴いていた。