夙川公園

projetdelundi2008-09-29

大阪と神戸のあいだにある夙川というところへ行った。ピンク色のゴシックの教会が住宅地にヨーロッパの雰囲気を振りまいている。至聖所では、聖テレジアという修道女の描かれたステンドグラスが、アールデコ風の祭壇と木の十字架を照らす。「幸せな人」という賛美歌が三角形の高い屋根に響き渡っていた。
夙川・苦楽園というと関西でいちばん住みたいとみんなが思う町だそうである。高級住宅街には自由が丘・田園調布しかり、おいしいケーキ屋がある。そうした予感からミッシェルバッハという店でケーキを買って、川沿いにある夙川公園で食べた。
食べる前には写真も撮っておく。ベンチの上にケーキの包みを広げて撮影していると、後ろからずっと見ているおじさんに気づいた。
「なにしてるの?」
「ケーキ食べる前に写真撮っておこうかと思って」
おじさんは私が写真を撮る模様をじっと眺め、そのあとロールケーキとエクレアを食べるところもじっと眺めた。あまりに見つめるのでケーキがほしいのかと思って半分こを提案したが、おじさんは丁重に断った。
そのうちおじさんは薮から棒にいったのである。
「あなたこの公園にいるひとのなかでいちばん幸せなひとやね」
教会を出たあとに誰かと偶然出会うとそのひとが天使みたいに思える。もちろんわたしの妄想だが、そのひとのいった言葉がおみくじみたいにいろんな意味に考えられておもしろい。わたしはそのとき必ずしも幸福感に満ちあふれていたわけではないけれど、ひとからそう見えるのだとしたら、もっと幸福だと思わなきゃ申し訳ないなという気分になった。
おじさんはこのあたりにきれいな沼があることを教えてくれた。地図を広げ行き方を尋ねると、沼の近くを指差した。
「ここがわたしの家」
高級住宅地のど真ん中だった。そんなにお金があるひとよりわたしのほうが幸福ということはありえない。たしかに適当に相づちを打ちながら夢中で食べていたロールケーキは、クリームもスポンジも空気のようにふわふわで、それを飲み下ろしてしまうまでのあいだは自分がいちばん幸福だったかもしれないが。