あんぱん

projetdelundi2008-11-23

ちょっと驚いたのだが、あんぱんはとてもうつくしいものである。
色がうつくしい。本物のあんぱんも、アンパンマン同様つややかに輝いててっぺんがハイライトになっている。かと思うとつや消しのざらっとした素焼きの陶器みたいなあんぱんもある。これはこれでうつくしい。
表面がつややかかそうでないかは、表面に玉子(あるいはほかの光らせる液体)を塗っているかいなかだそうである。
たしかに陶器に似ている。陶器よりうつくしいかもしれないとすら思うけれど、パンびいきでいっているのではない。
陶器は陶芸家が彩色し、釉薬を塗り、あるいはどんな工夫を凝らすこともできる。ほとんどの陶器はそうした狙いがあまりにですぎている感じがして、好きになれない。あんぱんはおいしくあろうと生まれてきてはいるけれど、うつくしくあろうとしているわけではない。その素朴さのためにかえってうつくしいのである。
えらそうに書いてきたが、すべてこうしてたくさん並べてみてはじめて気づいたことだ。いままでどれだけ注意散漫なのだという話だけれど。あんぱんだけまじまじと見ることなんてほとんどない。あんぱんを見ながら「あーなんてうつくしいんだろう」とため息をついていたら頭がおかしいと思われそうではないか。
わたしたちは見ているようでなにも見てはいない。なにしろマルセル・デュシャンは便器を美術館に展示して自分の作品だと称したぐらいである。彼もある瞬間にわたしがあんぱんに抱いたように便器にうつくしさを感じたからそうしたのだと思う。ありふれたものが急にうつくしく見える瞬間がたしかにある。
こうして普段並べられないものが急に並べて置かれると、現実に慣れきっていた意識がびっくりして目覚め、うつくしく見えることがある。一種類のパンばかり十店舗以上分も集める『パニック7ゴールド』連載の「パン・ラボ」はそういういいことがある。
あんぱんを取り上げた第2回は来月17日の発売。