あんぱん2

projetdelundi2008-11-26

「パン・ラボ」では11個のあんぱんをそれが生まれた順に食べてみた。
パンにもいろいろあるけれど、それが発明された瞬間が記録に残っていて、しかもほとんど同じものがいまでも食べられるというパンはざらにはない。
そのうえ、読者の多くがそれを食べたことあるので、読みながら味の想像がしやすい。いくら言葉を連ねたって読む人の心のなかに記憶がなければ理解することはむずかしいものであるから。
あんぱんのはじめは銀座木村屋總本店銀座本店の酒種あんぱんである。その翌年1875年(明治8年)に桜の花の塩漬けが入った桜あんぱんが生まれた。天皇陛下の花見に献上するために考えだした。入れてみたら塩味が甘さを引き立てて思いのほかおいしくできあがったのだという。
酒種の香りがあんことパンの仲立ちをしている。普通はパン酵母イースト)によって小麦粉を膨らませるのだけれど、木村屋の初代が考えだしたのは代わりに酒種を使うことである。だから酒まんじゅうのような和の匂いがする。これは想像だけれど、明治の初年代、パンというものと未知との遭遇を果たした日本人たちは、なんだかわからなかったんだろうと思う。ふわふわして手応えがないし味があるんだかないんだかぴんとこない。イーストの匂いだってはじめて嗅いだらいい匂いだと思えるかどうか。
パンに慣れない人においしく食べてもらうために、日本人になじみ深い、酒種を使うことを思いついたのだろう。すごいアイデアだと改めて思う。
パンの食べ方もわからなかったはずだ。いまならバターをつけるとか、ジャムをつけるとかみんな知っている。でも当時はそうではないから、食べ方の提案もしなくてはならなかった。日本の食べ物のなかでパンに合っているものを。
あんぱんには西洋のものを日本人に馴染ませる工夫のアイデアがいっぱい詰まっている。あんは和、パンは西洋。両方くっつけて和洋折衷。
日本人は和洋折衷しながら生きている。身の回りのものに日本オリジナルのものというのはほとんどない。洋服を着ている。マンションに住んでいる。外国人から見たら着方にしても住み方にしてもなんか変だと思うだろう。沁みこんだものなのでいまさらどうにもならないし、オリジナリティなんだからそれでいいと思う。