ポケットの中のベーグル

projetdelundi2009-03-03

ユダヤ人は放浪の民である。キリスト教のミサでは聖体(つまりキリストの体)と呼ばれるパンを食べる。私はよく教会に行くが信者ではないので食べたことがないけれど、あのパンは酵母で発酵させていないせんべいのようなものだ。モーセがエジプトを脱出して約束の地へ向かって砂漠を放浪していた頃食べていたのはそういうパンだという。すでにエジプトには普通のパンがあったはずだが、発酵させたパンは腐りやすい。だから旅には向かない。
ベーグルはなぜあんなにもちもちしているかというと、焼く前にゆでるからだ。ゆでるとイースト菌の活動が止まり、パンの中に空気が入らなくなる。ユダヤの人びとのDNAは無意識にパンを長持ちさせ放浪に備えようとしていたのかもしれない。
旅立つときユダヤの民はポケットにベーグルを入れていく。食べ物もなにもないような荒野を歩まなくてはならないから。あの大きさや形、つるっとして粉や油がついたりしないのも実にポケットに入れるのに向いている。旅に出ないとしても、働き者のユダヤ人が手を休めることなく食事をとるのにも向いている。ベーグルはユダヤ人のおにぎりではないだろうか。おにぎりが米の味を味わう料理であるように、ベーグルもトマトではなく、なにより小麦粉の味を味わうパンだった。