井泉本店

projetdelundi2008-01-29

上野広小路裏にある昭和5年創業の老舗洋食店。「箸で切れるやわらかいとんかつ」は初代店主が作り上げたもの。肉はとてもやわらかいけれど噛みごたえがないというわけではない。微妙な塩梅にこだわりがある。完全にやわらかくしてしまわないで繊維を残している。
上野といえば蓬莱屋、双葉、ぽん太…と老舗が軒を連ねるトンカツの聖地である。そのなかでもわたしは井泉が好きだ。路地裏に潜む木造の店舗が魅力的だからである。
建てられたのは戦後すぐのことで、いろんなところが痛んでいるので補修のために年に4、5日休みを取らなくてはならない。
白木のカウンターがとてもきれいですがすがしい。朝晩一生懸命に拭き込んでいるので、表面が数センチも削り取られてしまった。
洋食屋でオープンキッチンにしたのは昭和五年創業の井泉が最初。2人の板前さんがコンビネーションでトンカツを揚げていく様子は見ていておもしろい。
コロモとソースの相性が絶妙である。思わずゴハンをたくさん食べてしまうような爆発力がある。とんかつソースを日本で最初に開発したのがこの店の初代だという話を聞いて納得した。
パン粉は毎朝その日仕入れたパンを引いて手作りする。乾燥した普通のパン粉とは風味に天と地の差がある。かつサンドに使用しているパンと同じものである。
ヒレカツ定食1800円、ロースカツ定食1200円は上野の名店のなかでは格安。いろんなひとに食べてもらいたいためにあえて安くしている。「ブランド肉を使えば肉に関してはいくらでもおいしくできるけれど」と女将は言う。肉質にはこだわりながらもリーズナブルなものを使用することによって価格を抑えている。
材料のなかでもっとも値段の高いのは油。最高級のものを使っているので決して胃にもたれない。汚れたら客を待たせても取り替える。
カツサンドは時間が経つとパンとコロモとソースが馴染んでますますおいしい。パンの部分だけちぎって食べてもおいしい。ソースと油と肉汁がパンに移っている。とんかつとはまたちがったB級でなつかしい味わいである。