ドイツパン

projetdelundi2009-06-22

ドイツパンのイメージはすっぱい、硬い、食べづらいというもので、パン屋にいって自分から進んで買おうとはあまり思っていなかった。でもこのたびの「パン・ラボ」(『パニック7ゴールド』7月17日発売)で一変した。単に私の食わず嫌い、本物のドイツパンを知らないせいだった。
すっぱいということはない。酸味はあるが味に変化を、深みを、甘さを与えるものだ。ドイツパンを発酵させる種(サワー種)を育てる課程で酢酸菌が増えると単に酸っぱいものになるが、乳酸菌をふやすように持っていくとヨーグルトのように甘酸っぱくおいしいものになるということだ。つまりはパン職人の腕によるもので、あるドイツで修行をしたパン屋さんによると、本場の方法でサワー種を作ると酸っぱくなることはないと断言していた。
硬いというのもドイツパンにとってはいわれのない誤解である。ドイツパンが黒いのはライ麦を使っているからあが、ライ麦は水を吸い込む性質があって、だからライ麦の割合が多いパンはどれも小麦粉のパンよりとてもしっとりとしていて、硬いということはない。
ドイツパンは楽しいものだ。海外旅行に出かけ知らない町を彷徨い歩くような感じだった。食感はといえばライ麦のフレークや粗挽きがこりこりしたり、生地が崩れ落ちたり、とても重たかったりして、ぱくぱく食べられるようなものではない。それは石畳を踏んだり、坂道を上ったり、砂の上を歩いたりするように、新しい足の裏(舌の上)の感覚が次々と現れることに喩えられるだろう。そのことを困難と見るか楽しさと見るかが、旅行好き(ドイツパン好き)と出不精(食わず嫌い)の分かれ目なのだと思う。
ライ麦のドイツパンの味は小麦のそれおりもずっと濃く、深いし、噛んでも噛んでも新しい味がしみだしくる。だからドイツパンを買う時はそれを楽しむ時間と心の余裕があるときがきっといいのだと思う。例えば、おいしいソーセージを買ったとか、時間をかけて煮込み料理を作ったとか。お客さんを呼ぶときなんかも、何種類かドイツパンを揃えて、味の違いとかおかずとの相性を楽しみながらゆっくりと食べると楽しそうだ。
写真のパンは創業三十数年を数える東京フロインドリーブのポンパニッケル。日本ではじめて本格的なドイツパンを売り出した神戸フロインドリーブの種を80年前からつないでいるそうだ。この黒い色はカラメル色素の色でオーブンで4時間蒸し焼きにして得られる。味はひとことではいえない。すっぱさ、香ばしさ、苦さ、甘さが次々と噛むほどに時間差を伴って現れる。包丁でスライスするときのぐぐーっと生地に入っていく感じも好きだ。