2008-01-01から1年間の記事一覧

京都上リ下リ7

夷川通りという家具屋が建ち並ぶ通りがある。これも二条の一本北側で、寺町通りから入っていく通りである。 白いタイルを貼ったレトロな近代建築の店もあれば、木造の店先に渋く光る青い瓶をたくさん置いた老舗もあり、ほとんどガラクタのようなコマゴマした…

京都上リ下リ6

京都でおいしかったもの。 寺町にある一保堂というお茶の老舗で振る舞われた冷たいお茶。玉露に氷水を入れて15分ぐらい置いておくのだという。とろっとして香りが強く暑いときにほっとするものだった。 木造の店構えに白い暖簾が印象に残った。そのあとで寺…

京都上リ下リ5

「どんな音楽が好きですか?」と質問されたとき、 「現代音楽」と答えるとぎょっとされる。 現代音楽のことを知っているひとには、あんなピーピーとかガシャーンとかずっといっているだけのものをじっと聴いている物好きがいたのかと驚かれるのであり、現代…

京都上リ下リ4

わたしはお茶好きであってコーヒーはあまり口にしないので味の判断には自信がないが、六曜社という喫茶店で飲んだアイスコーヒーはやたらうまかった。苦みがさわやかなのである。店に入ってきても座らずに豆だけ買って帰るひとが多いのも、たぶんここのコー…

京都上リ下リ3

「京都でお寺にいかないで教会をまわるなんてかっこいいじゃないですか」 とひとにいわれたのでそうしてみた。 瓦屋根の家並にとつぜん現れるレンガ造りの古い教会はどきっとさせる感じがある。 ハリストス京都教会はロシア正教の教会で青いペンキで塗られた…

京都上リ下リ2

わたしはやたらに自転車を漕いでいた。必死になってどこかへたどりつこうとしていたがどこにもたどりつけなかった。久しぶりの旅行ですっかり舞い上がっていて、限られた時間のうちにいろんなところをまわろうと思いすぎていたせいか、せっかく京都まできた…

京都上リ下リ

ママチャリを借りて京都の町を走りまわった。京都はとても暑い町として知られているけれど、自転車に乗って風を切っていくと汗がすぐに乾いてひんやりして、気持ちよかった。 京都の住所は「寺町上ル」とか「御幸町下ル」とかいうふうに表現されている。北へ…

太陽の塔

聖なるものを探してひとり関西を彷徨った。 大阪といえば通天閣か太陽の塔だと思っていたのだが、大阪人にとってはそうではないようだ。 地下鉄の梅田駅で行き方を尋ねたら、 「太陽の塔? あれもうなくなったんちゃうかな。なあ?」 「たしか取り壊されたは…

色校

出版業界に足を踏み入れるまでは気づかなかったことだけれど、印刷のクオリティは製版技術者の力量や熱意によってまったく異なる。本屋に並ぶたくさんの本はぜんぶ同じではなくて、印刷がきれいな本もあればそうでもないものもある。 先日、印刷屋さんに手渡…

世田谷公園

きのうのつづき。 公園に足を踏み入れると、止まっていた水がいきなり飛びだし驚いた。噴水というのは突然出てきてひとを驚かせるのを生き甲斐にしていて、お化けと同じようなところがある。 世田谷公園の噴水は地上より一段低い。まわりを取り巻く傾斜地は…

シニフィアン・シニフィエ

志賀シェフというパン界の大物が三宿に開いたパン屋がシニフィアン・シニフィエ。世田谷公園の門前というピクニッケに絶好のロケーションにある。 魔女の靴みたいに先っぽが長くなっているのがバゲット・プラタヌで、わたしのようなカリカリ好きに贈るうれし…

「東京ピクニッケ」入稿

「1月から12月まで雑誌に連載したのをまとめた本で、毎月その季節に撮影をしたので、その季節の光が写り込んでいるんです。その光が表現されるように製版していただければ」 とADの山口信博さんは凸版印刷のプリンティングディレクターに説明した。片手は1…

帽子

9月10日に単行本『東京ピクニッケ』が発売されます。 その本のなかで紹介している「ピクニッケ7つ道具」の2番目は「帽子」。写真の帽子はどちらもパリのAnthony Peto(アントニー・ペト)で購入した。 キャプションを書くためにrue Tiquetonneにあるこ…

野点(のだて)

ピクニッケの撮影で再び台場の島を訪れた。 海の見える草原の高台で野点をする趣向である。野点とは一言でいうと茶道のピクニッケ。 『東京ピクニッケ』のデザインをお願いしている山口信博さんに「茶の箱」という野点用の道具をお借りし、奥様のみどりさん…

憶良らは

憶良らは今はまからむ子泣くらむそれその母も我を待つらむそ という歌が聞こえてきた。わたしは振り返ってテレビを見つめた。『日本語であそぼ』という教育テレビの番組のなかで子供たちが連呼しているのだった。 自分はもう帰るよ、子供が泣いていると思う…

フランス式

新宿御苑に行ったらフランス人がピクニッケをしていた。去年のクリスマスにわたしたちがピクニッケしたのとほとんど同じ位置。リュクサンブール庭園にそっくりなフランス式庭園を眺められる場所である。パリを懐かしむ気持ちがフランス人たちをもここでピク…

天亭

天亭のご主人の話。きょうは長いので見出しを見て興味のあるところだけ読んでください。 (時期外れのさんまが安くておいしい)「うちは活けものだけを使うようにしてます(ガラスケースのなかでは海老が飛び跳ねている)。魚はすべて築地で仕入れる。最近は…

台場

夏というのはそういえばこんなに暑いものだったのだ。と砂浜を歩きながら思いだしていた。砂浜といってもバカンスにでかけたわけではなくお台場の海である。近いのでありがたみがないようであるが本物の海には変わりない。 日盛りでちょうど太陽が真上にあっ…

ブリオッシュ

忘れもしない小学二年生のときにはじめてこの世にブリオッシュというものがあると知った日。 形もびっくりだけれど、バターと卵たっぷりで果てしなくお菓子なのにかろうじてパンの領域にとどまっているというその幸福な存在感がなによりわたしのこころを打っ…

先週の木曜日は晴れ上がりケーキのクリームが溶けるほど暑かったがピクニッケの撮影のために傘を差した。 右側の傘は『沖縄のおさんぽ』にのっている傘屋さんで買ったもの。左のアーノルドパーマーみたいなのはBEAMSで購入。派手すぎて差して歩くのは恥ずか…

田園調布

普通は晴れたときに散歩をし雨のときは散歩しない。雨の日に散歩してもじめじめしてズボンの裾は濡れるし靴は汚くなるし暗い気分になる。 と思っていたけれど雨のなか多摩川駅から田園調布まで歩いた。多摩川駅のホームから森が見えると以前に書いた。その森…

ガクアジサイ

真ん中は禿げたみたいになってまわりに5、6個しか花のようなものはついていないガクアジサイ。 なんでそんな中途半端な花を植えるのか、たくさん花のつくのを植えればいいのにと思って見過ごしていたが、よく見ると花のついていないところがいっそううつく…

スプーン

最近の虎太郎(1歳3ヵ月、11.5キロ)はゴハンを食べるときスプーンを三本用いる。右手用、左手用、わたし用である。 ゴハンを食べさせようとスプーンを持っていくと虎太郎は右手でひったくる。ひったくられるとゴハンをあげることができないので取り返そう…

黒猫

多摩川台公園に黒猫がいた。それも2匹。両方とも黒というのは親子なのか兄弟なのか。 上等のスエードのように黒光りして、触るとつるつるさわさわと気持よさそうで、真っ黒のなかに目だけ黄色く光らせている。黒猫は日常よく見かけるものなのに、日常から逸…

ホタルブクロ

多摩川駅は森に囲まれた駅だった。渋谷から十数分とは思えないほど濃い緑陰がホームから見え、ちょっとした旅行の気分である。 紫陽花の名所、多摩川台公園へ。駅前の丘を上がる階段に沿って紫陽花も段々に咲いている。階段を上がると驚きが待っていた。一面…

聖オルバン教会

聖アンセルモ教会と同じくアントニン・レイモンドの建てた教会。 飯倉を歩いているときに木造のちいさな教会が現れるのは不思議な光景である。 高原にあるようなログハウスかバンガローの趣き。なかに入るとまず目に入るのは、左右の壁から壁へと渡され幾本…

溶ける

八芳園の結婚式場には日本庭園がある。友人の結婚式でもきたことがあるが、そのときは遅刻して、式のあとには酔っぱらって帰ったので、庭園のうつくしさに気付かないままだった。 すり鉢のような地形の底に池がある。すり鉢の土手の部分を渦のように巻きなが…

マリアに出会う

聖アンセルモ教会の壁面にも十字架の道行がかけられている。普通の教会にあるものとは少しちがっていて、鉄の彫刻によるものだった。キリストが犠牲となるまでの14の場面が抽象化されて描かれている。 例えば、イエスが衣をはぎとられる場面(第十留)は奪い…

聖アンセルモ教会

目黒の駅にほど近い、巨匠アントニン・レーモンド作の教会。 打ちっぱなしの分厚いコンクリートに遮られたこの空間はひんやりし洞窟のような印象を与える。 といっても表面はとても繊細に仕上げられていて、包まれ護られている感覚が同時に感じられる。 内部…

あった

虎太郎(1歳2ヵ月、11.6キロ)は「あった」という言葉をよく使う。床に落ちているおしゃぶり を拾いながら「あった」といい、帰宅した妻を指差し「あった」という。言葉の使い方としてまんざらまちがっているとも言い切れない場面で発せられるけれど、どこ…